日々食べるものから脳をはじめ体はつくられています。脳の機能を高めたり、脳の健康を保つためにはさまざまな栄養素が協力して働くのでバランス良く摂取することが大切。では脳機能改善に役立つ食生活を見直してみましょう。
オメガ3の豊富な魚
魚に多く含まれているDHA/EPAは脳細胞を活性化し、記憶や学習能力の向上、認知症や神経障害などの予防改善をサポートする「脳に良い油」の代表的なオメガ3脂肪酸です。
DHA/EPAは脳をはじめとする神経組織や細胞膜を構成しているため不足すると情報伝達がうまくいかなくなって学習能力や記憶力などに悪影響を及ぼすことに。
例えば陸上の動物の脂肪は常温でも固まってしまいますが、魚の脂肪はマイナス40度ほどの超低温海中でも液状を保つことができます。
このような特性から魚の油は細胞膜を柔らかくしたり、血流改善効果など脳と体の健康にさまざまな効果を生み出してくれるのです。
脳の主要な構成要素であるオメガ3脂肪酸は体内では合成することができない必須脂肪酸なので食事などから積極的にとりいれたい栄養素のひとつ。
DHA/EPAは魚の脂肪に多く含まれているため、白身魚より、脂肪分の多いさば、さんま、いわし、まぐろ、ぶり、うなぎ、鮭(カマ、ハラス)などに多く含まれています。
オメガ3脂肪酸は酸化しやすいので、ビタミンCや緑黄色野菜など抗酸化作用を持つ食品と一緒にとりいれると良いでしょう。(1,2)
DHAとEPAで脳も体も活性化!魚はパーキンソン病にも有効?
栄養豊富な卵
卵は必須アミノ酸をすべて含み、ビタミンC以外のビタミン、ミネラル、たんぱく質、脂質など体に必要な栄養素がバランス良く含まれています。
卵黄に多いリン脂質のレシチンには神経組織や脳、細胞膜を構成するコリンが含まれています。コリンは脳で記憶や精神機能に関わるアセチルコリンを生成するために欠かせない重要な必須栄養素。(3)
神経伝達物質の生成に働くビタミンB6や、神経細胞内の核酸・たんぱく質などを合成・修復するビタミンB12など豊富なビタミンB群とともに神経機能の働きを維持し、脳を活性化させ、認知症予防にも役立ちます。
野菜や果物と一緒にとることで卵に不足するビタミンCを補うことができます。
昆布のグルタミン酸
うまみ成分として知られているグルタミン酸ですが、実は脳のエネルギー源として使われているアミノ酸の一種で脳の機能を高める働きがあります。
グルタミン酸は脳の機能を妨げるアンモニアなどの毒素を分解し尿の排泄を促進したり、脳の神経伝達物質として働き脳機能を活性化させます。
また、リラックス作用のある神経伝達物質GABA(ギャバ)の合成にも働きます。
グルタミン酸は記憶力や集中力を高めたり、認知症やうつ症状の予防改善、パーキンソン病の神経保護にも役立つ可能性があるといわれています。(4)
グルタミン酸は昆布に多く含まれているほか、海苔やわかめ、トマト、しいたけなどうまみ成分として身近な食品に含まれているので、料理に使う出汁を昆布でとれば体に必要なミネラルもたっぷり摂取できますよ。
だしの素や精製食塩、加工食品に多く使われている人工的なうま味調味料「グルタミン酸ナトリウム」とは似て非なるものなので注意。
このような味に慣れていくにつれ、味覚が麻痺し、本物の素材の味がわからなくなったり、キレやすい脳になっていくことが問題視されています。
また、通常の食事ではグルタミン酸をとりすぎるという心配はありませんが、食品以外の栄養補助剤などから過剰摂取すると、神経がたかぶって眠れなくなったり、神経症、幻覚などが生じる恐れがありますので注意が必要です。
ちなみにGABAは体外から摂取しても血液脳関門を通過できないため、体内でGABAの生成を促すグルタミン酸やビタミンB群などをとりいれると良いです。
ウコン(ターメリック)
ウコンは脳や体の健康機能に有益な効果をもたらすとして数多くの研究がされてきています。ウコンの主な有効成分はクルクミン。黄色い色素のポリフェールの一種で、カレーのスパイスとして多用されていますね。
クルクミンは強力な抗炎症作用を持つ優れた抗酸化物質です。クルクミンは脳内の限られた物質しか入ることのできない血液脳関門を通過することができるため、脳内でその効果を発揮することができます。
アルツハイマー病やうつ症状の軽減、加齢に伴う多くの脳疾患や記憶力の低下などを改善したり、新しい神経細胞の成長を助ける可能性があるといわれています。(5,6)
緑茶
緑茶にはカテキン、テアニン、カフェイン、ビタミン類が含まれており、多くの健康効果を期待できる飲み物のひとつです。
ポリフェールの一種であるカテキンは天然の強力な抗酸化物質で活性酸素から細胞の損傷を防ぎ、神経細胞を保護します。そのため脳の老化を遅らせたり、パーキンソン病やアルツハイマー病などの進行性神経変性疾患の神経保護剤として進行を遅らせたり予防効果を期待されています。(7)
また緑茶にはアミノ酸のテアニンやカフェインが含まれています。テアニンは脳のストレスを緩和してくれる働きがあり、カフェインと相乗的に作用して脳のエネルギーが安定し、記憶力の改善や生産性が高まります。
緑茶の茶葉は、事前に洗うという工程がないので、安心できる無農薬やオーガニックの緑茶を選びたいですね。
抗酸化力と免疫力向上に役立つ緑茶のエピガロカテキンガレートとは
ナッツ類
ナッツにはさまざまな種類がありますが、多くのナッツ類は不飽和脂肪酸やビタミンE、抗酸化物質などが豊富で、脳の健康に役立つ栄養素が含まれています。
ピーナッツの皮には抗酸化作用を持つポリフェノールや、クルミには脳の機能に重要なオメガ3脂肪酸(αリノレン酸)も含まれています。
高齢女性の認知機能に関連したナッツの長期摂取による研究では、ナッツの摂取量が多いほど認知力が向上することがわかっています。(8)
ベリー類
ブルーベリーやマキベリーなどのベリー類には抗酸化ビタミン・ミネラルに加え、ポリフェノールの一種アントシアニン類などが含まれています。
これらは強力な抗酸化物質で、酸化ストレスや炎症、脳の老化、神経変性疾患などを予防し、脳の神経伝達を調節するため運動機能と認知機能を改善するのに役立ちます。(9)
さらにナッツ類と一緒にとることで、それぞれの栄養素や抗酸化物質の相乗効果が発揮され、脳の機能を強化し、加齢による神経変性疾患、脳機能障害などの予防に役立つ可能性があります。(10)
マキベリーのパワーが凄い!抗酸化力はフルーツの中で最高レベル
コーヒー
コーヒーに含まれるカフェインは脳の中枢神経系に働きかけ、睡眠を誘う物質アデノシンをブロックするため覚醒作用や集中力を高める作用があります。
神経伝達物質セロトニンの分泌を促し、イライラを抑え気分を落ち着かせてくれる働きもあります。カフェインには血管収縮作用もあるため、低気圧による頭痛や、二日酔いの頭痛緩和にも役立ちます。
また、コーヒーには抗酸化物質ポリフェノールの一種クロロゲン酸が含まれており、優れた抗酸化力によって酸化ストレスや炎症から神経細胞を保護する可能性があります。
長期間にわたる継続的なコーヒーの摂取はパーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患の発症リスクを減らしたり、改善する可能性が高まります。(11,12,13)
ほかの栄養素と併せて相乗効果
ほかにもビタミンCは自律神経を整え、脳細胞の活性化、神経疾患の予防、ストレスを軽減し免疫力の向上に。ビタミンCはキウイや柑橘類、カムカム、赤ピーマン、ブロッコリーなど果物や野菜に多く含まれています。
ビタミンB群や各種ミネラル、フィトケミカルなどほかの抗酸化ビタミン、抗酸化物質と併せて摂取すると相乗効果が高まり、脳の活性化と体全体の健康、老化予防に役立ちます。
【参考文献】
(1) Park YH, Shin SJ, Kim HS, et al. Omega-3 Fatty Acid-Type Docosahexaenoic Acid Protects against Aβ-Mediated Mitochondrial Deficits and Pathomechanisms in Alzheimer’s Disease-Related Animal Model. Int J Mol Sci. 2020;21(11):3879. Published 2020 May 29. doi:10.3390/ijms21113879
(2) van den Brink AC, Brouwer-Brolsma EM, Berendsen AAM, van de Rest O. The Mediterranean, Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH), and Mediterranean-DASH Intervention for Neurodegenerative Delay (MIND) Diets Are Associated with Less Cognitive Decline and a Lower Risk of Alzheimer’s Disease-A Review. Adv Nutr. 2019;10(6):1040-1065. doi:10.1093/advances/nmz054
(3) Bekdash RA. Choline and the Brain: An Epigenetic Perspective. Adv Neurobiol. 2016;12:381-399. doi:10.1007/978-3-319-28383-8_21
(4) Zhang Z, Zhang S, Fu P, et al. Roles of Glutamate Receptors in Parkinson’s Disease. Int J Mol Sci. 2019;20(18):4391. Published 2019 Sep 6. doi:10.3390/ijms20184391
(5) Su IJ, Chang HY, Wang HC, Tsai KJ. A Curcumin Analog Exhibits Multiple Biologic Effects on the Pathogenesis of Alzheimer’s Disease and Improves Behavior, Inflammation, and β-Amyloid Accumulation in a Mouse Model. Int J Mol Sci. 2020;21(15):5459. Published 2020 Jul 30. doi:10.3390/ijms21155459
(6) Dong S, Zeng Q, Mitchell ES, et al. Curcumin enhances neurogenesis and cognition in aged rats: implications for transcriptional interactions related to growth and synaptic plasticity. PLoS One. 2012;7(2):e31211. doi:10.1371/journal.pone.0031211
(7) Weinreb O, Mandel S, Amit T, Youdim MB. Neurological mechanisms of green tea polyphenols in Alzheimer’s and Parkinson’s diseases. J Nutr Biochem. 2004;15(9):506-516. doi:10.1016/j.jnutbio.2004.05.002
(8) O’Brien J, Okereke O, Devore E, Rosner B, Breteler M, Grodstein F. Long-term intake of nuts in relation to cognitive function in older women. J Nutr Health Aging. 2014;18(5):496-502. doi:10.1007/s12603-014-0014-6
(9) Subash S, Essa MM, Al-Adawi S, Memon MA, Manivasagam T, Akbar M. Neuroprotective effects of berry fruits on neurodegenerative diseases. Neural Regen Res. 2014;9(16):1557-1566. doi:10.4103/1673-5374.139483
(10) Pribis P, Shukitt-Hale B. Cognition: the new frontier for nuts and berries. Am J Clin Nutr. 2014;100 Suppl 1:347S-52S. doi:10.3945/ajcn.113.071506
(11) Ribeiro JA, Sebastião AM. Caffeine and adenosine. J Alzheimers Dis. 2010;20 Suppl 1:S3-S15. doi:10.3233/JAD-2010-1379
(12) Nehlig A. Effects of coffee/caffeine on brain health and disease: What should I tell my patients?. Pract Neurol. 2016;16(2):89-95. doi:10.1136/practneurol-2015-001162
(13) Lee KW, Im JY, Woo JM, et al. Neuroprotective and anti-inflammatory properties of a coffee component in the MPTP model of Parkinson’s disease. Neurotherapeutics. 2013;10(1):143-153. doi:10.1007/s13311-012-0165-2