皆さんはお肉やバターを普段どのような基準で選んでいるでしょうか。現代は健康意識の高まりや食に対するサステナビリティが急速に変わってきていることもあり食生活は多様化してきていますね。
牛肉やミルク、バター、ヨーグルト、チーズなどは、牛がどんな環境で何を食べて育ったかによって残留汚染の心配や栄養価の違いなどが生じてきます。
牛肉やバターを選ぶ基準のひとつに、ホルモン剤・抗生物質フリーの「グラスフェッド」という選択肢もあるということについてお伝えしたいと思います。
グレインフェッドビーフとは
スーパーや外食産業などで提供される多くの一般的な牛肉は、穀物を飼料として育てられているグレインフェッドビーフ(穀物肥育牛)が主流です。
本来草食動物である牛に、遺伝子組み換えトウモロコシや大豆などの穀物を与え、成長を早めるためのホルモン剤や、狭い牛舎で病気になりやすいことから抗生物質などが投与されています。
このような不自然な飼料、化学薬剤に投与、窮屈な生育環境すべてが牛にとって大変なストレスに。そしてその牛肉や乳製品を食べる人間の体にも遺伝子組み換え作物、残留農薬、ホルモン剤、抗生物質などの汚染が移行することになります。
グラスフェッドビーフとは
一方でグラスフェッドビーフは、牛が放牧環境の中で牧草を食べて育つということがベースに(牧草飼育牛)。広大な牧草地で牛たちは自由に動きまわりながら、本来の牛の食べ物である野草や自然の牧草を食べ、ストレスフリーな環境で健康に育ちます。もちろんホルモン剤や抗生物質などは与えられていません。
現在はまだまだグレインフェッドビーフが一般的ですが、牧草で飼育された食肉や乳製品は世界各国でますます人気が高まっています。
グラスフェッドビーフは恵まれた気候で豊かな大自然が広がるニュージーランド、オーストラリアで盛んに飼育されていますが、ビールやウィスキーで知られるアイリッシュグラスフェッドビーフも近年注目されていますね。
ニュージーランドではすべての乳牛が牧草で飼育。我が家では乳製品を控えていますが、たまにバターを買うときはニュージーランド産グラスフェッドバターを選ぶようにしています。
オーストラリアのハンバーガーチェーン店ではグラスフェッドビーフを取り扱っているお店があるほど一般的に浸透しています。
日本も抗生物質、ホルモンフリーの安心できるグラスフェッドやオーガニックミートをもっと手軽に食べられるような環境になるといいなあと思います。
穀物を与えられて育ったグレインフェッドビーフよりも、本来の牛の餌である牧草を食べ、自然の中でのびのびと育ったグラスフェッドビーフの方が栄養価がより豊富に含まれるという特性も人気の理由。
グラスフェッドはより栄養価が高い
オメガ3脂肪酸が豊富
牧草で育てられたグラスフェッドビーフやグラスフェッドバターには、オメガ3脂肪酸が含まれています。オメガ3脂肪酸は私たちの体内でつくることができない必須脂肪酸で積極的に摂取すべき代表的な油。
細胞膜を柔軟にするので必要な栄養を細胞内にとりこみやすく、老廃物の排出を促したり、脳の神経伝達情報をスムーズにしたり、アレルギー症状の緩和、アンチエイジングにも欠かせない成分ですね。
共役リノール酸(CLA)
グラスフェッドビーフにはグレインフェッドビーフよりも多くの共役リノール酸(CLA)が含まれています。共役リノール酸は不飽和脂肪酸のひとつ。不飽和脂肪酸はほかにオリーブオイル、オレイン酸、ひまわりの種子、魚介類に含まれるDHA/EPAなどがあります。
共役リノール酸は体の代謝を高めて脂肪を分解する酵素の働きを活性化するので肥満予防効果に期待できる成分です。
抗酸化作用を高める
グラスフェッドビーフはグレインフェッドビーフと比較して、抗酸化酵素のグルタチオン、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、カタラーゼの活性作用が高いことがわかっています。
自然の牧草には植物たちが作り出す天然の抗酸化物質が含まれているため、牛が草を食べている場合に限り、抗酸化物質を豊富に生成することができるからです。
ほかにもグラスフェッドビーフには皮膚や粘膜の細胞分裂を促進したり免疫機能を調整するカロテノイドや、強力な抗酸化作用で知られるビタミンEも豊富。
一般的な穀物飼育のバターよりもグラスフェッドバターは濃い黄色をしています。これはカロテノイドの含有量が高いということ。
カロテノイドは体内で必要な分だけビタミンAに変換されます。純粋なビタミンAは植物性よりも動物性食品からのみ摂取できるもの。
私たちはグラスフェッドビーフやグラスフェッドバターを食べることで抗酸化パワーの恩恵を間接的に供給することができますね。
健康と自然環境に配慮した選択
食肉や乳製品、卵などを選ぶ基準の一つとして、家畜がどんな環境で、何を食べて育ったのかを知ることはとても重要なことです。
我が家の食生活は肉類や乳製品は基本的に控えていますが、月に数回ホルモン剤不使用、抗生物質不使用のグラスフェッドビーフやバター、オーガニックミートを食べるようにしています。
日々安心して美味しく食べられる食材を選択していくとともに、自然環境に配慮した食の選択も大切です。現在は地球の資源を人間の社会活動が1年間で60%も超過し、地球の資源が失われ続けている危機的状況ですね。
その要因の一つに、家畜に関連する二酸化炭素排出量など環境への負荷が大きいことや、世界の人口増加にともない将来的にたんぱく源が不足する懸念などもあります。
ニュージーランドの草をベースにした牧畜では、穀物飼料を輸入している畜産業と比べてカーボンフットプリントはより少なくなるといいます。
主要な牛乳生産国18か国を対象とした調査では、ニュージーランドはほかの国よりも二酸化炭素排出量が平均48%少ないという調査結果が出ています。
日常的な肉食は控えめにして、たまにいただく時はグラスフェッドやオーガニックの肉類、バターを選んでいきたいですね。
「サスティナブルな生活」地球環境を守るために私たちができること
【参考文献】
- Daley CA, Abbott A, Doyle PS, Nader GA, Larson S. A review of fatty acid profiles and antioxidant content in grass-fed and grain-fed beef. Nutr J. 2010;9:10. Published 2010 Mar 10. doi:10.1186/1475-2891-9-10
- Benbrook CM, Davis DR, Heins BJ, et al. Enhancing the fatty acid profile of milk through forage-based rations, with nutrition modeling of diet outcomes. Food Sci Nutr. 2018;6(3):681-700. Published 2018 Feb 28. doi:10.1002/fsn3.610
- McAfee AJ, McSorley EM, Cuskelly GJ, Fearon AM, Moss BW, Beattie JA, Wallace JM, Bonham MP, Strain JJ. Red meat from animals offered a grass diet increases plasma and platelet n-3 PUFA in healthy consumers. Br J Nutr. 2011 Jan;105(1):80-9. doi: 10.1017/S0007114510003090. PMID: 20807460.
- Dairy NZ New research shows New Zealand dairy farmers have the world’s lowest carbon footprint – at half the emissions of other international producers.