最近では食の安全性やSDGs(持続可能な開発目標)の観点から食材宅配、スーパーなどで「自然栽培」「有機栽培」「オーガニック」といった言葉をよく目にするようになりました。
どれも体に良さそうなイメージがありますが、どのような違いがあるのでしょうか?
有機栽培・オーガニック
有機栽培はオーガニックと同じ意味で「有機〇〇」、「オーガニック〇〇」などとも呼ばれています。
農産物、畜産物、加工食品には「有機JASマーク」が付されたものでなければ有機野菜やオーガニックと表示できない決まりになっています。
有機JASマークはJAS法にもとづき、有機JAS規格に適合した生産が行われていることを公的な第3者機関が検査し、この認証を受けると、有機JASマークの使用が認められます。
そのため有機JASマークがない農産物、畜産物、加工食品に「有機」、「オーガニック」などの名称の表示や、これと紛らわしい表示を付すことは法律で禁止されています。
年に1回検査と審査が必要となり、有機栽培と称するには3年間以上特定の農薬や肥料を使用することはできません。
有機JAS規格における有機農産物とは、農業の自然循環機能の維持増進を図るため、農薬や化学肥料の使用を基本的に避け、種子本来の力を発揮できるようにしたり、環境への負荷をできる限り低減した栽培管理方法です。
ただ有機栽培は人の健康にも自然環境にも配慮したサスティナブルな農法のようですが、栽培者によって有機肥料など使用の違いやさまざまな方法があるので、すべての有機栽培が安全であると言いきるのは難しいかもしれません。
有機栽培は生産者による違いも
有機栽培は一部の農薬・肥料の使用が認められている
有機JAS規格にはこうも書かれています。”圃場又はその周辺に生息し、又は生育する生物の機能を活用した方法のみによっては土壌の性質に由来する農地の生産力の維持増進を図ることができない場合”
”農産物に重大な損害が生ずる危険が急迫している場合であって、耕種的防除、物理的防除、生物的防除又はこれらを適切に組み合わせた方法のみによっては圃場における有害動植物を効果的に防除することができない場合”
このような状況下においては、一部の農薬や肥料の使用を認めています。さらにこれらの農薬は使用制限がないため、有機認定農家の中では頻繁かつ高濃度で使用しているケースが少なくないそうです。
有機栽培の小松菜を食べ比べてみた
我が家では有機栽培の小松菜を食べ比べるためA、B、C、Dの4社から同時期に取り寄せたことがあります。 A、B、C社の小松菜は自然な淡い緑色をしていて、生で食べた時のえぐみや苦みがなく、フレッシュでみずみずしい味わいなどが共通していました。
一方、D社の有機小松菜のみほかの3社とは明らかに違っていました。まず、見た目が不自然な濃い緑色、触った感触にぬめり感がある、生で食べると慣行栽培(一般的な農薬使用作物)の小松菜に近いえぐみ・苦みを感じました。
有機栽培では転換期間中の有機農作物という場合もあるため、おそらくその転換期間中なのかもしれないと思いながらD社へ問い合わせてみました。
ところが担当者のお話では、転換期間はすでに終わっており、JAS規格にもとづく安心安全な有機栽培の小松菜だというのです。ぬめり感は雨が続いた影響ではないかということでした。
ちなみにC社とD社は同じ産地でしたが、C社の有機小松菜はぬめり感もえぐみも無く、色合いは自然な淡い緑色をしていました。
おそらくD社は過剰な肥料の使用によって、えぐみをもたらす硝酸態窒素が高濃度に残留していたのかもしれません。
葉物野菜の色が濃いと栄養価の高い印象があるかもしれませんが、肥料が多いと濃い色になっている場合があります。
生物由来の有機肥料であっても使用量が増えれば、地下水を汚染し作物にとっても人間にとっても良くないです。
肥料の種類や無毒化されているか
また、動物性の有機肥料は主に家畜の糞尿からできているものが多いと思いますが、今家畜の飼料にはトウモロコシ、大豆など遺伝子組み換え原料を与えていることがほとんどで、ホルモン剤、抗生物質なども混入しています。
そういった飼料を食べ続けた牛・豚・鶏の糞尿には遺伝子組み換えなどの情報が残り、その成分を作物たちが吸収することにつながる心配もあります。
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そしてこれらの有機肥料がどの程度発酵したものかによっても違いが。長い時間をかけて発酵させた完熟たい肥であれば良いのですが、短時間で発酵させたようなたい肥では無毒化できないのです。
有機栽培とひと口に言っても栽培者によって農薬や肥料の種類、使用量に違いがあるので、信頼できる生産者の有機食材を選びたいですね。
有機栽培食材の選び方
- どのような由来の原料を使用した肥料を扱っているのか
- 完熟たい肥を使用しているかどうか
- 農薬を使用しているかどうか
無農薬・無肥料の自然栽培
農薬や自然由来の肥料も不使用
自然栽培は農家さんによって細かな農法の違いはありますが大きな特徴としては、農薬や化学肥料の不使用、公的機関の認証の必要がない、そして自然由来の有機肥料も使用しません。
栽培期間中にこれらに頼ることなく、本来植物や土が持っている力を引き出す農法で、限りなく自然に負荷をかけることのない永続的な栽培方法のひとつで「太陽・水・土」という大自然の3つの恵みを活かして栽培に取り組んでいます。
自然の摂理を活かした農作業
どうして無肥料で作物が育つのかというと、まず農家さんの丁寧な土づくりからはじまり、品種改良されていない種を選んだり、生態系という自然の摂理を活かした愛情あふれる懸命な農作業であります。
そして作物の栽培では植物の成長に不可欠な3大栄養素として窒素、リン酸、カリウム(無機元素)があります。肥料の3要素として作物の栽培で使用されるのは一般的です。
土壌の微生物や植物の光合成、酵素などの働きによって分解・変換されることで、作物が栄養分を根から吸収したり、成長に必要なアミノ酸やたんぱく質を合成するということができるのです。
一方山の中では肥料を施したり草を刈ったりせずとも植物やたくさんの木々が育っています。山の中の土では窒素、リン酸、カリウムが潤沢にあるわけではありません。
ですが自然の土中細菌には想像もできないほどの生きた土のパワーがあり、その土に欠けている養分を補ったり、あるいは空気中の窒素を植物が吸収しやすい形に換えるなど、必要に応じて自然のいとなみが繰り広げられているのです。
農薬や肥料を施していない自然の土の中には膨大な微生物の生命活動が織りなすひとつの生態系ですね。
肥料は硝酸態窒素の危険性を高める?
硝酸態窒素は人にも環境にも悪影響
植物の成長に欠かせない肥料の3要素である窒素、リン酸、カリウムは化学肥料をはじめ、植物性・動物性といった自然由来の有機肥料にも含まれています。
一方窒素は作物の生育に最も必要とされる欠かせない養分なのですが、多過ぎることが問題視されています。窒素は主に作物の成長過程で「硝酸態窒素」として吸収されます。
窒素は作物にとって成長促進剤となり早く生育しますが、与えすぎると化学肥料、有機肥料に関わらず硝酸態窒素が高濃度に残留することに。
特に葉物野菜は硝酸態窒素が残留しやすく、小松菜、ほうれん草では色が濃くなったり、生で食べた時にえぐみや苦みを感じる特性があります。
硝酸態窒素は発がん性など人体に悪影響を及ぼし、土壌、地下水も汚染します。
過保護な野菜は軟弱
人間も高カロリーな食事を続けていれば栄養過多となり肥満や、糖尿病など健康を害してしまうのと似ています。
硝酸態窒素の多い野菜は生育が早くても、肥料を与えられ過保護に育てられているので、自ら生きていくために必要な養分を求めて土中に根を張る努力をせず軟弱なのです。
例えば本来の時間をかけて成長したトマトは種が多く重みもあり、葉物野菜の小松菜などは葉脈が左右対称に規則的に伸びる自然の性質があります。しかし農薬や肥料が多いとトマトの種は少なく水っぽい味に、小松菜の葉脈は綺麗な左右対称ではなくなり乱れるように。
過剰な肥料が野菜のえぐみを生じ虫も集まりやすい
さらに硝酸態窒素には虫が集まりやすい特徴があり、農薬も必要になってきます。味は苦み・えぐみが出やすく、腐敗しやすいので日持ちも悪くなります。(本当に良い野菜はしおれていくだけで腐ったりしません)
これを人間が食べることで、野菜などに残留している硝酸態窒素も一緒に摂取することに。硝酸態窒素の多い作物を食べると、体内で亜硝酸塩やニトロソアミンに変化し、発がん性、糖尿病、アレルギーの原因となる可能性が指摘されています。
ほうれん草や小松菜を生のまま少し食べてみて、唾液と混ざってから苦みを感じたら、ニトロソアミンが発生している可能性が高いです。
硝酸態窒素は適量であれば食品添加物として認められていますが、EUでは日本よりも厳しい残留濃度基準が設けられています。
無農薬・無肥料の野菜は美味しくて栄養価も高い
硝酸態窒素は小松菜やほうれん草など緑の濃い葉野菜に多く含まれており、ゆでるなど加熱調理でおよそ3割程度低減できるそう。ただ、加熱によって生野菜のもつビタミンや酵素は失活してしまいます。
生で食べる場合は露地栽培で無農薬・無肥料の自然栽培野菜を選んだ方が安心です。硝酸態窒素は露地栽培よりも土壌微生物の少ないハウス栽培や水耕栽培に多く残留しやすい傾向に。
窒素は肥料に限らず土壌や空気中、雨にも存在しています。自然栽培の作物は肥料を与えないことによって窒素が過剰供給されないので自然とあまり虫がよらなくなるのです。
そして自然の生態系の中で土中に深く丈夫な根を張り、生きるために必要な栄養分を過不足なく吸収し、たくましく育つので、栄養価が高くなりやすく、腐敗しにくくなります。
オーガニック食材の取扱店
- 自然栽培:ナチュラルハーモニー
- 有機野菜・無農薬野菜・無添加食材など:秋川牧園
環境にも人にも良い農作物
農作物の中で最も難しいといわれている無農薬・無肥料でのリンゴ栽培を成功させた「奇跡のリンゴ」、「自然栽培の名付け親」でも知られる木村さんはこう話しています。
”農薬を使わなくなってわかったことがあるのな。農薬を使っていると、リンゴの木が病気や虫と戦う力を衰えさせてしまうのさ。楽するからいけないんだと思う。
クルマにばっかり乗っていると、足腰が弱くなるでしょう。同じことが起きるわけ。それでな、リンゴの木だけじゃなくて、農薬を使っている人間まで病気や虫に弱くなるんだよ…”
山の中では農薬も肥料も散布していないのに、植物たちは自然から与えられた環境の中で、すくすく育っています。
水や養分がなければ根を必死にのばし、生きるために必要な栄養分だけを吸収し、環境にあわせて精一杯生きている。だからこそ無駄なく細胞の密度が詰まり、甘みや栄養分が豊富に蓄えられているのですね。
無農薬無肥料の自然栽培食材や安心できる原料の完熟たい肥で育てられた有機栽培食材を選んで、自然環境にも私たちの体にもやさしい持続可能な食の選択をしていきたいです。
自然栽培の食事が体内に蓄積した農薬や有害物質の排出力を高める