メラトニンは睡眠中に分泌される神経内分泌ホルモンの一種。睡眠を促す働きがあるため睡眠ホルモンともよばれています。
メラトニンは睡眠を促す働きだけでなく、生体リズムを整えたり、免疫機能や細胞の新陳代謝に関与しているほか、驚異の抗酸化力があるといわれています。
メラトニンについて
メラトニンは神経内分泌ホルモンの一種で、脳の松果体から分泌されます。体をつくるたんぱく質を構成するアミノ酸のトリプトファンからセロトニンがつくられ、そのセロトニンからメラトニンがつくられます。
メラトニンは深い良質な睡眠を促す自然なホルモンで、成長ホルモンの分泌を高め細胞の新陳代謝を促進たり、脳の疲労を回復したり、肝細胞の再生、肌の生まれ変わりも活発にします。
メラトニンは夜間の暗い環境で分泌が促されます。そのため寝る前にパソコンやスマートフォンを続けていたり、明るい照明がついている環境では生体リズムが崩れ、メラトニンの分泌が減少してしまうことに。
また起床時や日中にしっかりと太陽光を浴びることで生体リズムが調整され、心身のバランスを保つセロトニンの生成が高まります。そして夜間は周囲を暗く保つことで就寝時に適切なメラトニンの分泌がはじまります。
メラトニンの働き
免疫機能と感染症対策
過度なストレスや働き過ぎ、睡眠不足などのさまざまなストレスによって自律神経が乱れ、免疫力は下がってしまいます。
メラトニンは慢性的なストレスや睡眠不足によって引き起こされる免疫力の低下を軽減し、免疫機能を活性化して、風邪やウィルスなどの感染症予防に効果を期待できます。
アリエル大学(イスラエル)・モスクワ大学の論文では、コウモリは高レベルのメラトニンを保有する動物であり、抗ウィルス耐性に寄与する可能性が高いとして、メラトニンはコロナウィルスの感染対策、症状の重症化を軽減する可能性が高いということが発表されています。(1)
強力な抗酸化作用
メラトニンには驚異的な抗酸化作用があり、血管や細胞が活性酸素によって傷つくのを強力に防ぎます。その抗酸化力はビタミンCやビタミンE、グルタチオンといった抗酸化物質よりも強力であることが報告されています。(2)
メラトニンは脂溶性かつ水溶性であり、限られた物質しか通さない血液脳関門にも入ることができるため全身に行きわたり、抗酸化作用を発揮することが可能に。
そして細胞膜やミトコンドリア、DNAを保護するとともに、スーパーオキシドディスムターゼ、グルタチオン、カタラーゼなど多くの抗酸化酵素を活性化する作用があり、メラトニンほどの抗酸化物質はないといわれているほどです。(3)睡眠がいかに重要かということがわかりますね。
睡眠と成長ホルモンを促す
メラトニンは天然の睡眠剤で、周囲の環境が明るいと分泌は抑制され、暗くなると体温や血圧を下げて睡眠を誘います。そのため時差ぼけの解消など体内時計もコントロールしています。
就寝時にメラトニンが十分に生成されると、若返りホルモンとよばれている「成長ホルモン」も分泌されやすくなります。
眠りについてから最初の3時間(ノンレム睡眠)に成長ホルモンは最も多く分泌されます。細胞は働くことと、新陳代謝(生まれ変わり)を同時に行うことはできません。
成長ホルモンはしっかりと熟睡しているときに、細胞の成長や修復を行い、血管の修復と再生をしたり、脂肪の代謝、免疫力の活性化、肝細胞の再生、皮膚細胞の新陳代謝も促進し新しい細胞に生まれ変わらせるので肌の美しさにも影響します。
メラトニンレベルを高める方法
朝日を浴びる
夜にメラトニンをしっかり分泌させるためには朝日を浴びることです。朝起きた時に太陽光を浴びることで生体時計がリセットされ、その約15時間後位から徐々にメラトニンは分泌されはじまめます。
太陽光の刺激によってメラトニンの材料となるセロトニンも生成されます。睡眠時間は個人差がありますが、免疫学者の安保先生のお話では7~9時間程度が理想で、自律神経のバランスが整い免疫力も高まりやすくなるということ。
照明を暗くする
メラトニンは明るいと分泌が抑制され、暗くなると分泌が高まるため、就寝前や就寝時には周囲を暗く保つことが大事。
パソコンやスマートフォンから出るブルーライトはメラトニンを抑制するほど強い刺激があり、交感神経が働いて入眠の妨げに。そのため夜はブルーライトを遮断する機能を使用したり、就寝前は控えるなど工夫しましょう。
良質な睡眠のために自分の体にあった枕の高さや寝具など、睡眠環境を整えることも大切です。
役立つ食品
メラトニンの原料となるセロトニンはトリプトファンからつくられます。トリプトファンは体内で合成することができない必須アミノ酸のため、食品などから意識的にとりいれたい栄養素のひとつ。
トリプトファンはさまざまな食材のたんぱく質に含まれ、ビタミンB6、ナイアシン、マグネシウムとともにセロトニンをつくるため、これらの栄養素も併せてバランス良くとりいれることが大切です。
- トリプトファンを含む食品・・・乳製品、大豆製品、ナッツ類、アボカド、バナナなど
- ビタミンB6を含む食品・・・レバー、かつお、鮭、まぐろ、バナナ、にんにくなど
- ナイアシンを含む食品・・・レバー、鶏肉、かつお、まぐろ、さば、たらこ、緑黄色野菜、小麦胚芽、キノコ類など
- マグネシウムを含む食品・・・魚介類、海藻類、玄米、ゴマ、そば、大豆製品、ナッツ類など
体温を高める
就寝2~3時間前に軽めの運動をしたり、入浴をして体温を高めておくと、就寝時にメラトニンの分泌が促され、睡眠の質が高まりやすくなります。
体が温まったあとは、体温が下がります。この体温落差の幅が大きいほどメラトニンの分泌が高まり、寝つきが良く深い睡眠を得られるのです。
メラトニン分泌を高めて細胞を元気に
ほかにも、リズミカルなウォーキングなど適度な有酸素運動によって毛細血管への血流がアップし、メラトニンの原料となるセロトニンが生成されやすくなります。
また年齢とともにメラトニンの分泌は低下してしまうので、脳や体を休めるために必要な睡眠量が減少傾向に。日光を浴びたり、昼夜のメリハリをつけるなど工夫し、メラトニンと成長ホルモンを分泌して、毎日細胞をきちんと生まれ変わらせていきたいです。
【参考文献】
(1) Can melatonin reduce the severity of COVID-19 pandemic?|Taylor & Francis Online
(2) Antioxidative action of melatonin and reproduction
(3) Reiter RJ, Acuña-Castroviejo D, Tan DX, Burkhardt S. Free radical-mediated molecular damage. Mechanisms for the protective actions of melatonin in the central nervous system. Ann N Y Acad Sci. 2001 Jun;939:200-15. PMID: 11462772.